大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和24年(新を)2514号 判決

被告人

服部慶助

主文

原判決を破棄する。

本件を新潟簡易裁判所に移送する。

理由

前略。

なお論旨の中に、物価統制令第九条ノ二は同令第三条に基く統制額の指定のない場合にのみ適用すべき規定であるとの主張があるが同令第九条ノ二は単に「価格等ハ不当ニ高価ナル額ヲ以テ之ヲ契約シ支払ヒ又ハ受領スルコトヲ得ズ」と規定しているのみであるから、この文詞の上からこの規定を所論のように制限的に解釈することは困難であるのみならず、右規定違反の罪と同令第三条違反の罪との各構成要件を比較検討すると、形式的には実質的にもその内容を異にしているのであるから、この両規定が互に相排斥する規定であるとは解せられない。けだし同令第九条ノ二に謂う「不当ニ高価ナル額」とは経済取引上の通念に照し適正と認められる価格を超えた額と解すべきであるが、若しこの適正価格と同令第三条に基く統制額とが常に一致するものであれば、同令第三条違反の行為を更に同令第九条ノ二違反として論ずべき理論上の根拠も乏しく、又実際上の必要もないのであるが、統制額が必しもすべての取引において適正価格と一致するものでないことは、現今の経済取引上の経験則に徴して明白である。尤も統制額は現実の経済事情を調査検討の上決定されるものであるから、多くの場合において統制額を適正価格と認めることができるであろうが、統制額決定後の経済事情の変動その他の原因による適正価格の変更ということも有り得るから、両者が常に同一と即断することは許されない。故に統制額を超えてした取引でも必しも不当高価な取引とならない場合があると同時に、統制額及び適正価格の双方を超えて取引される場合があり得るが、この後者の場合において、その行為が物価統制令第三条違反の罪と同令第九条ノ二違反の罪との各犯罪構成要件をそれぞれ充足しているに拘らず、第三条違反の罪が成立するから別に第九条ノ二違反の罪は成立しないと論断し得る理論上の根拠はない。第九条ノ二の規定が多くの場合統制額の定のない場合に適用されることは、規定の運用の問題であつて、その規定を解釈する理論的基礎とはなり得ない。要するに同令第三条と第九条ノ二の各違反の罪は、それぞれ異なる構成要件を有する互に独立した犯罪であるから、統制額の有無に拘らずその構成要件を充足する限り同令第九条ノ二違反の罪は成立するものと解すべきであり、論旨は理由がない。

(註、本件は理由不満により破棄差戻)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例